2011年1月22日土曜日

井上ひさし著 『シャンハイムーン』

 いま、NHKのラジオ「まいにち中国語」の応用編では、霍建起(フォ・ジェンチー)監督の映画『初恋の想い出』(原題『情人結』)を題材にして講座がおこなわれています。霍建起監督は、『山の郵便配達』『故郷の香り』などでも知られ、とくにその静かな淡々としたストーリー展開と心に訴える美しい映像は定評のあるところで、そのことについてもいつかは感想を書いてみたいと考えています。 (下の写真は『初恋の想い出』のヴィッキー・チャオとルー・イー。ヴィッキー・チャオはこの作品で第8回上海国際映画祭主演女優賞を獲得。)

 この『初恋の想い出』のなかに、「魯迅の『傷逝』のなかの『子君』みたいに、君が後悔するんじゃないかと心配だ」という一節があって、講座ではこのことを契機に魯迅についていろいろと語られました。そのひとつに、「魯迅の優れた伝記」として井上ひさしさんの 『シャンハイムーン』が紹介されたのです。私は、井上ひさしさんのファンで、小説はほとんど全部読みましたが、戯曲は何となく取っつきにくく感じてあまり読んでいませんでした。たまたま地元の図書館にすでに絶版になっているこの本があったので、さっそく借りてきて読んでみました。たしかに、この本は面白い。魯迅を国民党の追及の手からかくまった日本人たちの熱い想いがビビッドに伝わってきます。彼らの、一方では国民党から、もう一方では非国民と叫ぶ同胞からのあらゆる誹謗・中傷・迫害にも負けることなく暖かく魯迅を守っていく姿は、なにか尖閣問題などで揺れ動く現代にも通じる、人としての在りようを問うもののように感じました。
 ラジオ講座のなかで紹介された魯迅の『小さな出来事』とはどんなものかと思って、一緒に竹内好訳の岩波文庫本も借りてきました。文庫本5ページにも満たないこの短編を読んでみて、『シャンハイムーン』のなかで語られていた次の一節の意味がよくわかりました。
 「読む者のこころを洗い清め、さらに静かな勇気を養わせてくれる魯迅小説。」
 私は、魯迅という名前は知っていましたが、お恥ずかしいことに作品はひとつも読んだことがありませんでした。ということで、この冬は魯迅の作品に挑戦してみようと思いたったのでした。
  ところで、藤井省三さんは、竹内好さんの訳は「日本的土着化傾向」が強く、魯迅の長文を短文に置き換えてしまって、迷い悩む魯迅の思いを明快な思考に変換してしまっていて正確な訳にはなっていない、といっています。
 「じゃあ、原文で読んでみるか」ということで、東方書店から魯迅の作品『吶喊』、『朝花夕拾』、『故事新編』の三冊を取り寄せ、「この冬は魯迅に挑戦するぞ」と意気込んでいます。